世の中にはすごい人がいっぱいいる。
事業で大成功した人とか、オリンピックで金メダルを獲った人とか、
孫さんとか羽生君とか、とにかく自分の夢を成し遂げた人は、
みんなすごい。
いや、そんな大きなことじゃなくても、私が出来ないことが出来る人は、
みんなすごい。
英語がペラペラの人、ピアノが弾ける人、絵が上手い人、等々数え上げたらキリがない。
今、うちは外壁の工事中なんだけど、足場を組んで吹き付けをして、あれしてこれして、
工事の人たちを見ていると、みんなすごい。
ってなことを考えると、自分が出来ることなんてほんの少しで、
後のほんどの事は他の誰かにしてもらっている。
なるほど~、みんなすごい。いやいや何を今さらって感じだけど、
日頃は日常の些細なことは忘れている。
だから?なに? みんなに感謝? という話でもない。
昔の私は、それこそ雲を掴むような大成功を妄想していた。
ボルトみたく速く走りたいとか、ピカソみたくな絵が描きたいとか。
起業して大金持ちになりたいとか。
それならそれで、そうなるための努力をしたかというと…
全然していない。
ただ空想をはるかに超えた妄想をしていただけ。(><;)
まったくもって、今思うと アホかいなって感じ。
現実というものを全く見ていなかったっけ。
歳を重ねるごとに、妄想の威力は衰えて、自分の周りを冷静に見渡せるようになった。
ちょっと前のことになるんだけれど、
家の近所に、80歳を過ぎてるであろうおじいさんがやっている自転車屋さんがある。
ある時パンクしたのでその自転車屋さんに持っていった。
その自転車屋さんは、木造の築100年は経っているのじゃないかというくらいのおんぼろなお店。
そこには足を引きずったおじいさんが一人で自転車修理をしていた。
私が「パンク修理をお願いします」と言って入っていくと、
おじいさんが、「すぐに済むから、これに座ってテレビでも見ていて」と言って、
シートに穴の開いたおんぼろな椅子を持ってきてくれた。
私は、言われ通りに椅子に腰を下ろして、棚の上に置いてあるテレビを見上げた。
そのテレビが、これまた年代物っていう感じ。画面の中では吉本の人たちが舞台で動き回っている。
これ、ガチ昭和の風景じゃん。
なんか懐かしいな~、こんな光景は私が小学生だった頃には、あちこちにあったけ。
おじいさんは、慣れた手つきでパンクを直している。
この人はずっと、こうやって、ここで何年も、いや何十年も自転車修理をしてきたんだな~
なんて思いながら、私はおじいさんの手元を見ていた。
「はい、終わったよ。千円ね」おじいさんはそう言って小さく笑った。
千円?安くない?安いじゃん。
私は、おじいさんに千円を渡すと、「ありがとうございました」と言って店を出た。
パンクの直った自転車には乗らずに、押して歩いた。なぜか歩きたかった。
「あのおじいさん、すごいな、すごい人だな」って、呟きながら歩いた。

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